【体験談】他人軸で選んだ科をやめて、転科するまでの話【動悸・休職・転科】

朝、通勤の乗り換え案内を見ると、足がすくむ。 気づけば、動悸がしている。白衣を着て働くこと自体が、しんどくなっていた。
これは、「内科の花形」と呼ばれる科の専攻医だった頃の、俺の話。 かっこいい話じゃない。でも、同じように「このままでいいのか」と迷ってる人に届けばと思って書く。
【告白】俺は、自分の軸で科を選んでいなかった
正直に言う。自分の軸では選んでいなかった。 「手技を身につければ一生食いっぱぐれない」「専門医のブランドがある」——そういう「外側の理由」で選んだ。まわりがそう言うから。すごそうだから。期待もあったと思う。 そもそも、親が内科の開業医だった。だから俺は、「内科系」以外の選択肢を、初めから見てすらいなかった。
選んだ瞬間は、選んだ気になっていた。 タチが悪いのは、その時はあくまでも自分の意思で選んでると、本気で思ってたこと。 でも今思えば、他人軸で選んでいた。ここが、後でしんどくなる原因だった。 (「自分で選んだつもり」の見分け方は、この記事に書いた)
限界を自覚する前に、体が悲鳴をあげた
働き始めて、限界を自覚するより先に、体がサインを出した。 動悸。通勤の乗り換え案内を見ると、足がすくむ。 そのうち、通勤電車の中で、自然と涙が溢れるようになった。 いつの間にか、それが当たり前になっていた。毎日泣きながら病院へ向かって、それでも「気の持ちよう」で片付けようとしていた。
人事で行った先は、いわゆるブランド病院だった。ただ、新参者の俺にとっては、本音を出せない空気の職場で、「外様」の肩身の狭さがじわじわ効いた。 今思えば、あれは洗脳だった。自分で自分を洗脳して、無理やり順応させようとしていた。あまりにも、無理やりだった。
最終的に、休職した。 医師なのに、自分の不調には鈍感だった。情けないとも思った。でも、立ち止まれたのは結果的によかった。
ここで救われたのは、妻の支えだった。 「再起不能」になる手前で止まれたから、復活までの時間は短くて済んだ。ひとりだったら、もっと深いところまで落ちていたと思う。
立ち止まって、「専門医=目的」のバグに気づいた
休んでいるあいだ、ずっと考えた。 そして気づいた。「専門医を取る」が、いつのまにか目的になっていた。
専門医は、本当は手段のはず。じゃあ目的は何だ? 俺は、どんな医療を、どんな働き方でやりたいんだ?
言葉にしてみると、出てきたのは地味な答えだった。
- 急性期でバタバタするより、慢性期で、じっくり
- 訴訟に怯えるより、穏やかで、笑顔のある空間で
- 当直で削られるより、自分のペースで
- 街の人の、ちょっとした相談相手のような存在に
救急と手技に追われる、当時の科の世界とは、正直、ベクトルが逆だった。
俺は、大学の「中」しか知らなかった
休んでいるあいだに、もうひとつ大きなことに気づいた。
俺は、大学の6年間はもちろん、初期研修も大学で過ごし、そのまま医局に入った。 つまり——ずっと、大学の「内側」の考え方にしか触れてこなかった。
医療の常識も、働き方も、キャリアの選び方も、全部「大学の中の基準」で見ていた。自分の視野が狭いことに、その時まで気づけなかった。
視野を広げたくて、全国の医師に会いに行った
休職して1ヶ月。少し動けるようになってから、ある計画を始めた。 大学の外で働く医師に、実際に会いに行くこと。
どんな働き方をして、どんな医療観で、どんなスタンスで生きているのか。本で読むんじゃなく、自分の目で確かめたかった。
全国のいろんな先生に会った。学んだことは本当に多い——
- お金の話を、きれいごとで終わらせない正直さ
- 「街の相談相手」のように、地域に根を張る生き方
- 専門性だけでなく、「個性の掛け合わせ」でキャリアを作る発想
- 自分の「在り方」から逆算して働く、ということ
大学の中にいたら、一生出会えなかった景色だった。
【決断】転科を決めた。体が、ふっと軽くなった
迷ったし、怖かった。「今さら」「もったいない」という声も、自分の中にあった。 でも、誰かの期待じゃなく、自分で選び直すと決めた。 俺はその科をやめて、別の科へ転科した。(どこからどこへかは、いまは伏せておく)
「内科を選ばない」と決めた時、ふっと体が軽くなったのを覚えてる。 ずっと自分を縛っていた「他人軸」から、少しだけ自由になった感覚だった。
【最後に】同じように、迷っている人へ
転科を考える過程で、もうひとつ分かったことがある。 今いる場所しか知らないと、世界が狭い。外には、いろんな働き方も、転職の選択肢も、お金の選び方もあった。
専門医を取るのをやめろ、って話じゃない。 ただ、一度だけ立ち止まって、「これは自分が選んだ道か」を確かめてほしい。
体がサインを出す前に。 あなたのキャリアは、あなたが選んでいい。
※これは運営者・じんの個人的な経験です。働き方やメンタルの感じ方には個人差があります。つらいときは、無理をせず、産業医や専門家にご相談ください。

